相続

相続の遺留分って何?請求できる人・割合・具体的な計算例・請求方法について詳しく解説

もし自由奔放だった夫が亡くなり、遺言に
「財産は推しのアイドルに全部あげる」
「財産は愛人に全部あげる」
「財産は飲み友達に全部あげる」
と書いてあったとしたら…
残された妻や子供はどう生活していけばよいか不安になりますよね。
そんなときのために民法では、配偶者や子供に最低限の遺産を相続することを認めています。
これが「遺留分」です。
本記事では、1級FP技能士ライターである鎌形が、シミュレーションも交えながら

  • 遺留分の該当者
  • 遺留分の割合
  • 遺留分の具体的な計算方法
  • 遺留分の請求ができる財産
  • 遺留分の請求方法

について、より詳しく解説します。
ぜひ最後までお読みください。

遺留分とは


遺留分とは、一定の相続人が請求できる、最低限の相続財産の取り分のことです。
万が一、他人に全財産を相続するという内容の遺言であったとしても、残された家族が生活で困らないように民法で定められています。
例えば、夫が「全財産をアイドルにあげる」と遺言していても、妻や子供は法律に基づき、自分達の遺留分を請求可能です。

遺留分を請求する権利がある人とは?

遺留分は誰でも請求できるわけではありません。
いざというとき自分が当てはまるかどうかを知っていると安心です。
どのような人が請求できるのかについて解説します。

遺留分を請求できる相続人の範囲


引用:大阪法務局 
遺留分を請求できる人は、一定の法定相続人と法律で決まっています。
この権利を持っているのは、上記左の家系図より、

  • :常に相続人:配偶者(夫・妻)
  • :第1順位:子(子が死亡の場合は孫)
  • :第2順位:親(祖父母も含む)

の3つの相続人グループです。
このグループは、助け合って生活していると法律で考えられているため、遺留分を請求できるようにすることで手厚く扱われています。

  • :第3順位:兄弟姉妹

には遺留分がないことに注意しましょう。

遺留分の割合


引用:大阪法務局 
遺留分の割合は、上記右の表のように相続人の組み合わせによって異なります。

  • 全体の遺留分:全相続財産に対する家族全体での最低限の取り分の割合
  • 法定相続分:前項で説明した相続人グループの割合

この2つ「全体の遺留分」に「法定相続分」をかけると、それぞれの相続人の遺留分が求まります

遺留分の具体的な計算例


前項では、遺留分を請求できる相続人の範囲や割合について見てきました。
ここでは具体的な例に基づいて、実際に計算してみましょう。

妻と子2人(A,B)が相続人のパターン

遺産総額が8,000万円の場合

  • 全体の遺留分は8,000万円×1/2=4,000万円
  • 4,000万円×1/2(妻の法定相続分)=2,000万円(妻の遺留分)
  • 4,000万円×1/4(子Aの法定相続分)=1,000万円(子Aの遺留分)
  • 4,000万円×1/4(子Bの法定相続分)=1,000万円(子Bの遺留分)

となります。
もし「アイドルにすべて相続させる」と遺言されたとしても、

  • 妻:2,000万円
  • 子A:1,000万円
  • 子B:1,000万円

の金銭を、アイドルに対して請求できます。

妻と父母が相続人のパターン

遺産総額が6,000万円の場合

  • 全体の遺留分は6,000万円×1/2=3,000万円
  • 3,000万円×2/3(妻の法定相続分)=2,000万円(妻の遺留分)
  • 3,000万円×1/6(父の法定相続分)=500万円(父の遺留分)
  • 3,000万円×1/6(母の法定相続分)=500万円(母の遺留分)

となります。
もし「アイドルにすべて相続させる」と遺言されたとしても、

  • 妻:2,000万円
  • 父:500万円
  • 母:500万円

の金銭を、アイドルに対して請求できます。

妻と妻の兄が相続人のパターン

遺産総額が6,000万円の場合

  • 全体の遺留分は6,000万円×1/2=3,000万円
  • 3,000万円(妻の遺留分)
  • 0円(兄の遺留分)

となります。
もし「アイドルにすべて相続させる」と遺言されたとしても、

  • 妻:3,000万円

の金銭を、アイドルに対して請求できます。
この場合、兄弟姉妹は遺留分を請求できないことがポイントです。

遺留分が認められない5つの場合


遺留分は家族の最低限の取り分を守る大切な制度ですが、すべての相続人に認められているわけではありません。
この章では、どのような相続人が対象外なのかを解説していきます。

1.兄弟姉妹

第1順位の子や第2順位の親がいない場合に法定相続人とはなりますが、兄弟姉妹には遺留分の請求は認められていません。
法律上、生活を共有する単位に兄弟姉妹は含まないと考えられているためです。

2.相続欠格者

「相続欠格」とは、相続の秩序を破壊するような非常な行為を行った場合に相続の資格を失うことを言います。
たとえば、亡くなった人を殺害したなど犯罪を犯したり、不正な遺言書の作成に関わったりなどの場合です。
相続権を失うことに伴い遺留分も消滅します。

3.相続廃除された人

「相続廃除」とは、亡くなった人の生前に、亡くなった人の意思で相続人の権利を剥奪することです。
たとえば亡くなった人の生前「家庭内暴力を受けていた」など虐待や侮辱などを受けていた場合です。
相続権を失い遺留分も消滅します。

4.相続放棄した人

「相続放棄」とは「亡くなった人の財産を一切受け取りません」と法律上はっきりと宣言することです。
相続を放棄した場合、最初から相続人ではなかった扱いになるため、遺留分もなかったことになります

5.遺留分放棄した人

遺留分の放棄」とは、本来最低限もらえるはずの取り分(遺留分)を、あえて受け取らないと約束する手続きのことです。
当然に遺留分はなくなります

遺留分の請求ができる3つの財産


法律では、預金、不動産、保険など、相続が開始した時以外の財産にも請求できます。
どのような財産が対象になるかを理解しておくことで、相続の不安を減らしトラブルを防ぐことに繋がります。

1.遺贈する財産

遺贈」とは、遺言書によって「〇〇さんにあげる」と自由に決められるものです。
残された家族の最低限の取り分を減らしてしまう可能性があり、遺留分の請求対象となります。

2.死因贈与する財産

死因贈与」とは、亡くなった人と相続人の双方で合意して贈与するものです。
契約として成立する特徴があります。
これも、遺留分を減らしてしまう可能性があり、請求が可能です。

3.生前贈与した財産

生前贈与」とは、亡くなる前に財産をプレゼントすることを言います。
こういった財産も、家族の最低限の取り分を侵食します。
具体的には、亡くなる1年前以内の贈与、遺留分を減らす目的で贈与したと認められる場合、相続人への特別受益として扱われる贈与が遺留分の請求対象です。
特別受益とは、相続人が生前にもらっていた住宅取得資金や結婚子育て資金などの贈与が該当します。

遺留分が侵害された時は「遺留分侵害額の請求」をしよう


亡くなった人の遺言書の内容によって、遺留分が減らされることを「遺留分の侵害」といいます。
この遺留分の侵害がされたときに法律では「遺留分侵害額請求権」というものがあります。
詳しく見ていきましょう。

遺留分侵害額請求とは?

遺言や生前贈与により遺留分が侵害された場合、取り分を取り戻すために「遺留分侵害額請求」を行います
請求先は、遺言や生前贈与により財産を多く受け取った人です。
取り戻すのは「物」ではなく「不足している金額(遺留分侵害額)」になります。

遺留分侵害額請求の時効は?

遺留分侵害額請求には、以下のように時効が定められています。

  • 遺留分が侵害されていることを知った日から1年
  • 相続が始まった日(亡くなった日)から10年

前者は、遺言の内容や生前贈与を知った日からカウントされます。
後者は、いつまでも争いが続くことを避けるための決まりです。
つまり、遺留分侵害請求には「知ってから1年」「相続開始してから10年」という2つの時効があり、どちらかを過ぎると権利が消滅します。
注意点として、期限内ならば法律上の権利は失われませんが、請求や訴訟・差押えが遅れると、相手が財産を使ってしまい「権利はあるが実際にお金は戻ってこない」という結果になりえます。
疑問がある場合はできるだけ早く状況を確認し、早期の請求と法的対応が必要不可欠です。

遺留分侵害額請求を行使する4つのステップ

遺留分が侵害されていると気づいたら「どうやって請求するのか」気になりますよね。
遺留分請求は、感情的な話し合いではなく、法律に則って冷静に進めることが重要です。
基本的な流れを解説します。

1.内容証明郵便を送付

「内容証明郵便」とは「いつ、誰が、どんな内容の文書を送ったか」を公的に証明する郵便です。
遺留分侵害の請求をした事実が残るように、内容証明郵便で請求書を送りましょう
請求の際には遺留分の侵害を証明する必要があり、根拠となる資料を揃えます。
弁護士に相談すると安心です。

2.話し合い

遺留分の侵害をしている相続人や受贈者(財産をもらった人)と話し合います。
合意すれば、ここで終了です。
話し合いが成立したら、後々言った言わないの争いを防ぐために合意書を作成しましょう。

3.調停

「調停」とは家庭裁判所で行われ、裁判より柔らかく、第3者(調停委員+裁判官)が入り話し合いで解決するものです。
当事者間の話し合いで合意に至らなかった場合、家庭裁判所に「遺留分侵害額の請求調停」を申し立てます
調停により合意できれば、裁判ほど長期間にならず費用も安く済みます。

4.訴訟

「訴訟」とは裁判所に正式な判断をしてもらう手続きで、話し合いや調停で解決できない場合の最終手段です。
「遺留分侵害額請求訴訟」を行い、遺留分を認めるかどうかと支払額を決定します。
数ヶ月から1年以上と長期にわたることもあり、費用も調停より高くなるのが一般的です。
書類提出や、期日出席などの負担もあります。

まとめ


遺留分の問題は、亡くなった人が遺留分のことを知らず遺言書を作成することから発生します。
そもそも相続は一生に数回程度しか起こらないもので、知識不足になってしまうのも仕方ありません。
ただ、残された人々の財産に大きな影響があるため、事前に調べておくことが重要です。
遺留分の請求には専門的内容も多く正確な知識や判断が必要なため、弁護士や税理士などの相続の専門家にアドバイスを求めることをおすすめします